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【AdverTimes.コラム連載vol.8】選手ブランディングはこんなに面白い!ミスターライオンズのアイデア
2024.07.16
本記事はAdverTimes.にて連載したコラム「西武ライオンズ広報変革記~やる獅かない2024~」の転載です。
こんにちは。西武ライオンズ広報部長の赤坂修平です。
3か月連続で8連敗と苦しんでいた我々ライオンズですが、21歳の若武者が救ってくれました。
「一番はお母さんに報告したいです。初勝利したよ」とヒーローインタビューで答えた菅井信也投手。「菅井!初めてだろ。ヒーロー。今日は初勝利をベルーナでファンの前で成し遂げられたこと、これから勝ち星を積み重ねていく。これをうまくファンの皆さんに伝えらえるようにね。」
そんなヒーローインタビューに送り出すのは広報部員の仲間です。マウンドより緊張したという菅井投手ですが、初めてとしては、うまく話せていたと思います。
さて、今回のテーマは「選手ブランディングはこんなに面白い!」です。前編の「ミスターライオンズのアイデア」、後編の「丸刈りとロン毛」の2本立てでお届けします。キーワードは「構想力+社内交渉力+社外発信力=広報力」です。
「狭山山不動寺で自主トレ公開」を栗山選手自ら提案
2023年1月、私がライオンズの広報部長に着任して最初の仕事は、選手の自主トレ公開でした。自主トレ公開とは、メディア側の要望に応じて選手がオフシーズンの自主トレを、日程を決め公開するものです。
まずは新入団選手です。前年のドラフトで指名された新入団選手が、球団スタッフと共に合同で自主トレを行います。オフシーズンはネタが少ないので、球団としても格好のPR素材です。
2023年新入団選手の自主トレの様子。
新年早々、ファンの方たちは寒空の中で熱い眼差しを向けていますが、まだ初々しい彼らはトレーナーの指示通りに体を動かし、ファンの掛け声に応えるなどの余裕を見せる選手は一切いません。
一方、球団の顔でもあるベテランの中村剛也選手や、日本代表「侍ジャパン」にも選出されている源田壮亮選手らは、サッカーなどを取り入れ、普段の練習では行わないような体全体を動かすトレーニングを行い、自分たちのペースで和気あいあいと、ベルーナドーム横のトレーニングセンターや、二軍の本拠地として使用しているCAR3219(カーミニーク)フィールドで汗を流していました。
自主トレに励む選手たち。
着々とメディアが要望する選手の自主トレ公開を終え、最後の大トリは「ミスターライオンズ」と呼ばれる栗山巧選手でした。
基本はベルーナドームと都内でトレーニングをする栗山選手ですが、どうすれば「ミスターライオンズ」らしい自主トレを公開できるか、我々広報が考えなくてはいけませんが、なんと栗山選手自らが考えていました。
そんな彼が出したアイデアは、ベルーナドームに隣接する狭山山不動寺で自主トレを公開するというものでした。
狭山山不動寺は、毎年ライオンズが必勝祈願を行う寺として知られています。確かに、ライオンズらしい場所での自主トレ公開であり、私もこの業界に入る前に、プロ野球選手が護摩修行をする映像などを見たことがあったので、無理なことではないと思い、近々に迫った日程の中で住職に直談判し、許可をいただきました。
取材する記者に対し、狭山山不動尊での撮影ポイントを示した。
前日に下見を行い、広報部員の仲間を栗山選手に見立てて、どのように映るかを確認しました。また、メディアに配布できるように敷地内のマップに撮影ポイントを記載するなど、入念に準備を行いました。
そして迎えた当日の朝、栗山選手を見て驚きました。上下のウェアに加え、シューズまでライオンズブルーで統一していたのです。まさに「ミスターライオンズ」。これがプロ意識を持った選手だと思いました。
全身ブルーで統一したミスターライオンズこと栗山選手。
少し話が逸れますが、サッカー選手の三浦知良さんの日経朝刊のコラムを私はいつも楽しみに読んでいます。いわゆる「カズ語録」ですね。そのコラムで、過去に次のような記述がありました。
「プレーが上手でも、語りは不得意な選手もいるかもしれない。『仕事』の範囲をどうとらえるか、だろうね。プロ選手は組織に属しつつも個人事業主でもあって、自己プロデュースの能力もある程度身につけなきゃならない。ピッチ内でも外でも、自分の価値は自分で上げるしかないから。」(日本経済新聞、2018年3月2日掲載)
まさにこの言葉を思い出しました。ここにそれを体現している人がいるということです。
「セルフブランディング」の大事さを広報部からプレゼン
そんな栗山選手と狭山山不動寺に移動する際、すれ違った中村選手が「栗、頭ブルーやないやん」と言って、自らが被っていたライオンズのキャップを手渡しました。「おう、サンキュー!」と言ってそれを被った栗山選手は、頭のてっぺんから足の爪先までライオンズブルーに染まりました。
「ナイス、おかわり!いい奴やん。」まだ話もしたことない中村選手に心のなかで感謝しました
狭山山不動尊での栗山選手の囲み取材の様子。
ここで、気付かされたのが「セルフブランディング」です。自分自身を「商品」と捉え、社会に必要としてもらうために、自らの力でマーケティング・宣伝活動を行うこと。自らの強みや、技術や魅力、経験など、目には見えない価値を魅力的に、説得力を持って発信するスキルであり、文字通り「自分をブランド化」することです。
当然、プロ野球選手として野球で活躍することをファンの方も望んでいます。しかし、個人事業主である彼らは、それ以外でも活躍の場を広げることができるし、セカンドキャリアを考えれば、野球以外で強い武器を持っていることも大切です。
そこで、春季キャンプ初日の全体ミーティングの場で、選手、スタッフに対し、セルフブランディングの大事さを広報部としてプレゼンしました。
この場は、私の上司でもある飯田光男球団本部長や渡辺久信ゼネラルマネージャー(当時)、そして松井稼頭央監督(当時)から、今シーズンのチーム方針や、どのようにペナントレースの開幕戦に向けて臨んでいくかが語られます。
これまで、広報部長が前に立ち、プレゼンをすることは当然ありませんでした。しかし、飯田球団本部長はそれを許可してくれました。
2022年度の観客動員数は、12球団最下位でした。これには理由があることは2回目のコラムでお話ししましたが、「ファンあってのプロ野球」であることが改めて見直される機会となっていました。
そこで先ほどお話しした三浦知良さんのコラムの記事や、タレントの武井壮さん、元ホストで現在は実業家として活動しているROLANDさんのエピソードなどを用いて、セルフブランディングを築くために、ロールモデルを徹底して演じていることを話しました。
その中で栗山選手も例にあげ、自然な振る舞いから「ミスターライオンズ」というセルフブランディングを形成していることを話し、「いい見本が身近にいるので、みんな意識をしてやっていこう。そのために広報部は全力でサポートする」と選手たちにも約束しました。
今まで私が広報を担当していたのは、ホテルや鉄道、不動産、あるいはレジャー施設でした。それが今は、感情を持つ選手たちです。チームを訴求することも大事ですが、勝敗に左右されやすい性質があります。
しかし、選手個人であればプレー以外の違った側面を出すことで、一つの商品になると考えたのです。これが冒頭で掲げたキーワード1の「構想力」です。