株式会社西武ライオンズ

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お知らせ

【AdverTimes.コラム連載シーズン2 vol.6】累計1万個超売れた!ライオンズの「クソデカネックレス」が“語られるグッズ”になるまで

2025.10.06

本記事はAdverTimes.にて連載したコラム「西武ライオンズ広報変革記~NEXT STAGE 2025~」の転載です。


こんにちは。西武ライオンズ広報部長の赤坂修平です。


今シーズン、ライオンズに異彩を放つ応援グッズが登場しました。通称「クソデカネックレス」。正式名称は「ビッグチェーンネックレス」――なのですが、ファンの皆さんからは「クソデカネックレス」と呼んでいただいています(笑)。

「クソデカネックレス」を着用してヒーローインタビューを受ける、渡邉勇太朗投手(左)と西川愛也選手(提供:西武ライオンズ)。


球場でひときわ目を引く金色の極太チェーンと球団マスコット「レオ」の巨大チャーム。その存在感は、単なる応援グッズを超えて、ファン文化そのものを可視化するシンボルになりました。SNSを中心に自然発生的に広がったこの現象は、ライオンズの広報にとって大きな意味を持っています。なぜ、この“遊び心”がここまで受け入れられ、広がったのか。今回のコラムは、その舞台裏をお話ししたいと思います。


>商品発売前のSNS投稿はこちら


球団広報部長の立場で商品を正式名称で書かないのもどうかと思うのですが、ここではあえて“クソデカ”と書かせていただきます。


クソデカネックレス誕生の裏側


「ビッグチェーンネックレス」税込3,900円(提供:西武ライオンズ)。


きっかけは、球団のMD部門に所属する中村作(私は親しみを込めファーストネームで「作(つくる)」と呼んでいます)の提案でした。彼は年齢も一回り以上離れているのですが、私がライオンズに着任したころから、よく議論を交わす仲になっていました。


ある日、彼から「こんなアイテムをやりたい」と持ち込まれたのが、このネックレスです。MLBの試合中継で見かけて着想を得たものだったようですが、正直最初に聞いたときは「本当に売れるのか?」と半信半疑でした。でも、彼の目は本気でしたし、若い担当者が自信を持って、説明する姿には頼もしさを感じました。


西武グループには「でかける人を、ほほえむ人へ。」というグループビジョンがあり、その実現のために掲げている役職員の行動指針は「誠実であること」「共に歩むこと」「挑戦すること」の3つです。ライオンズの文化にも「まずはやってみよう」という柔軟さがあり、この挑戦はその精神に合致していました。だからこそ、商品化に踏み切りました。


実はこの「まずはやってみよう」の姿勢を象徴するエピソードとして、前シーズンのコラムで紹介した「ロン毛グッズ」があります。あの時も、彼と広報部員と髙橋光成投手が三位一体となって形にしたもので、今回のクソデカネックレスと通じる“挑戦する文化”の延長線上にありました。


誰でもロン毛になれる「ロン毛キャップ」は税込4,950円。現在は完売(提供:西武ライオンズ)。



ファンの熱を引き出す“非日常性”


選手同士でネックレスをかける場面も(提供:西武ライオンズ)


クソデカネックレスは、実用性という観点ではゼロです。かさばるし、軽いといってもそれなりに重さがある。それでも多くのファンが手に取り、身につけるのはなぜか。そこにあるのは“非日常性”です。


私があるメディアに渡したメモにこう書いてあります。


「機能的価値はなし、あるのは情緒的価値のみ」


ファンの皆さんは、球場でしか味わえない体験を求めています。声を出すだけが応援ではない。フラッグを振る、ライオンズの応援歌である「チャンテ(チャンステーマ)」を歌う、身につける、飛び跳ねる――それらが一体となってスタンドの熱気をつくり出す。ネックレスの“ジャラジャラ音”もまた、その応援リズムの一部になりました。



SNSでの自然発生的拡散

発売前から、SNS上では少しずつ「なんだあれ?」というざわめきが広がっていました。私たちも意図的に“チラ見せ”を行い、正式発表前に興味を持ってもらうように心がけました。さらに、選手が実際に着用することで、一気に話題性が高まり、「ホームランやヒーローインタビューで選手がかける姿を見て、ファンの方も欲しくなる」――これはイメージ通りでした。


髙橋光成投手(左)と渡部聖弥選手のヒーローインタビュー(提供:西武ライオンズ)。


結果、発売と同時に即完売。再販を重ねても、やはり完売が続きました。


しかし最大のトリガーは、球団ではなくファンの皆さんが生み出した「クソデカネックレス」という呼び名です。


球団としては公式に使ってはいませんが、ファンの間で自然に広まり、SNS投稿の起点となりました。ここに“語られる余白”があったのだと思います。


さらに若い女性ファンが投稿した、ネックレスをエモーショナルに切り取った写真が一気に拡散されました。映えるアイテムとしてSNSの中で存在感を持ったことで、コアなファン層を超えて「面白そう」「ちょっと欲しい」という声が広がっていったのです。



ライオンズらしさとオリジナリティ

このネックレスがライオンズでこれほど受け入れられた理由を因数分解すると、最後に残るのは「オリジナリティ」だと私は考えています。


ライオンズの応援文化には、他球団にはない独自性があります。たとえば選手を応援するためのフラッグ「ゲーフラ(ゲートフラッグ)」。選手名やエンブレム、オリジナルのデザインを描いた旗を両手で掲げる文化は、今や多くの球場で見られますが、現在ライオンズファンのゲーフラの多さとバリエーションは群を抜いています。


ゲーフラを使い声援を送るライオンズファン(提供:西武ライオンズ)。


もうひとつは応援歌である「チャンテ4(チャンステーマ4)」です。テンポが速く単純なリズムですが、メロディアスで男女に分かれるパートがあり、特に女性パートの音色は耳にも脳にも心地がよい。正直、歌詞がわからなくても構わないくらい、聴いているだけでノレる。遠征先の球場でも、他球団ファンから「ライオンズのチャンテ、カッコいいな」と羨ましがられるほどです。



熱い応援を見せるライオンズファン(提供:西武ライオンズ)。


こうした文化に共通するのは、「応援を自分らしく表現できる」という点です。球場という特別な空間だからこそ、普段はつけないような巨大なネックレスを身につけることも許される。若い女性にとっては“映えるアイテム”、年配のファンにとっては「球場だからこそやってみよう」と思える挑戦。クソデカネックレスは、ライオンズらしい自由でオリジナルな応援スタイルに自然にフィットしたのです。



ファンとの共創と文化の広がり

このグッズの面白いところは、「売る」こと以上に「語られる」ことを重視して設計されている点です。ファンは球場で身につけて写真を撮り、旅先でも「クソデカ、今福岡にいるよ」「仙台に向かう新幹線の荷物掛けにジャラジャラ下げてます」と投稿する。空港の保安検査場で「それ金属ですか?」と聞かれたエピソードまで共有される。まさに、ファン同士の会話のきっかけになっているのです。


オールスター戦でも、ライオンズの若手選手が他球団の選手にネックレスをかける場面が話題になりました。私たちもスタッフ総出で現場に持ち込み、自然なかたちで広がるよう後方支援しました。今では他球団でも類似商品が出ていますが、やはり「ライオンズ発祥」という文脈があってこそ強く根づいたのだと思います。


>オールスターのSNS投稿はこちら


これは私たちが意図的に仕掛けた部分もあれば、完全にファンが自発的に楽しみ方を見つけてくれた部分もあります。重要なのは、球団が過度に演出しすぎず、ファンの皆さんが楽しむ余白を残すこと。そうすることで、自然にUGC(User Generated Content)が生まれ、文化として広がっていきます。


>ホームランパフォーマンスについてのSNS投稿はこちら

>選手用ビックチェーンネックレスについてのSNS投稿はこちら


販売数はすでに累計1万3000個を超えています。ベルーナドームの収容人数が約2万8000人ですから、単純計算すれば約半分がジャラジャラ鳴らしている計算になります。想像しただけで笑ってしまうような光景ですが、それこそがファン文化の力なのです。


そして実は、このネックレスには“派生アイテム”も生まれています。5月には「べるーにゃバージョン」が、そして8月26日には「ライナバージョン」が発売されました。


べるーにゃ×ライオンズ ビッグチェーンネックレス(提供:西武ライオンズ)。



ビッグチェーンネックレス ライナVer.(提供:西武ライオンズ)。


この「ライナバージョン」、実は投手陣からの発案で生まれたものです。野手はホームラン後に“クソデカ”をかけてもらうシーンが定着しましたが、投手陣から「自分たちも欲しい」という声が上がりました。確かにピッチャーには、セレブレーションアイテムはない。そこで「じゃあ投手用にライナをつくろう」という話になったのです。


ビッグチェーンネックレス ライナVer.を着用する與座海人投手(左)と今井達也投手、ライナ(提供:西武ライオンズ)。


表向きは「ライナの要望で誕生した」ということになっていますが、実際には球団側にも「野手だけが目立つのもどうか」という気持ちがありました。結果として投手陣も自分たちのアイテムを手にして、チーム全体の一体感を高めることができたのです。



バズは設計できるのか?

このクソデカネックレスの着想は、実はメジャーリーグにルーツがあります。最初に導入したのはおそらくサンディエゴ・パドレスで、タティスJr.らがホームランを打った後に巨大な“スワッグ・チェーン”をかけるパフォーマンスをしていました。

ただ、日本のファンの多くは大谷翔平選手の試合以外のMLBの演出までは見てはいないのかもしれません。だからこそ、ライオンズのネックレスは新鮮に映り、“二番煎じ”ではなく“オリジナルの面白い応援グッズ”として受け止められたのだと思います。


アメリカではベンチパフォーマンスのひとつだったものが、日本ではファングッズとして定着し、さらにSNSを通じて拡散される。文化の違いが、このユニークな広がりを後押ししました。まさに、MLBの着想をライオンズ流にアレンジしたことが成功の鍵だったのです。


よく「バズは偶然だ」と言われます。確かに完全にコントロールはできません。ファン一人ひとりの心の動きまで読み切ることは不可能です。


しかし、私は「バズには設計できる部分がある」と考えています。今回の事例で言えば、


. 違和感からの着想(笑ってしまうようなサイズ感と機能的な価値がないこと)


. ファン文化への理解(ジャンプ応援や横移動とジャラジャラ音の親和性)


. SNSでの自然拡散を促す設計(チラ見せ、写真映え)


. 語られる余白を残した商品設計(公式が“クソデカ”と呼ばない選択)


. 他球団への波及を見越した展開(オールスターでの仕掛け)


こうした要素が有機的に絡み合った結果、「売れる」ではなく「語られる」グッズとなった。つまりバズは偶然ではなく、一定の準備と設計によって“可能性を高める”ことができるのです。



応援はもっと自由でいい

スタンドを彩るライオンズファンの応援が選手たちの力になる(提供:西武ライオンズ)。


最後に、私が一番大事にしているのは「応援はもっと自由でいい」という考え方です。勝敗はもちろん最重要ですが、どんな結果でも「今日は楽しかった」と思ってもらえることが、球場体験の価値を決めます。


自由に旗を振り、ジャンプし、歌い、そして巨大なネックレスをジャラジャラさせる。その光景がスタンドを彩り、チームへの愛着を育てていく。クソデカネックレスは、そんな自由な応援の象徴だと感じています。


そして何より、ファンと球団が一緒につくりあげた文化であることが大きい。偶発と設計のバランスから生まれたこのグッズは、ライオンズらしさのひとつとして、これからも語り継がれていくでしょう。