株式会社西武ライオンズ

  • Twitter
  • Facebook
  • Instagram
  • Line
  • Youtube

お知らせ

【AdverTimes.コラム連載シーズン2 vol.8】ライオンズ広報変革の3年を振り返る――意識改革から機構改革、数字の成果をつくるまで

2025.12.10

本記事はAdverTimes.にて連載したコラム「西武ライオンズ広報変革記~NEXT STAGE 2025~」の転載です。



ライオンズは2025シーズン、173万人を動員。12球団で最も高い前年比伸長率に(提供:西武ライオンズ)。


こんにちは。西武ライオンズ広報部長の赤坂修平です。


2025シーズンの埼玉西武ライオンズは5位という結果に終わりました。しかし、ベルーナドームには昨年を大きく上回る熱気と笑顔が広がり、観客動員数は173万人──12球団で最も高い前年比伸長率を記録しました。裏返して言えば昨年はそれだけ空席があったということになりますが、ポジティブにとらえていきたいと思っています。


私は、この数字を“成果”としてではなく、ここ3年間で積み重ねてきた改革の“過程の証拠”だと捉えています。勝敗だけに左右されず、広報・コミュニケーション・マーケティングの思考でファンの心を動かし、事業としての変化をつくれるという自信が、確信へと変わった一年でした。


最終回となる今回は「広報の再定義」「視座=人財育成」「ファンとの共創」、そして今年考え続けた「ライオンズらしさ」という問いを軸に、この3年間で取り組んできた“広報変革”の集大成として見えてきたものをお伝えしたいと思います。



【広報の再定義】受動的な役割から、価値を創造する部署へ

私が広報部長に着任当初、広報部は“マスコミ対応の部署”という位置づけに留まっていました。誤解を恐れずに言えば、受動的。全体のコミュニケーションの流れをつくるというより、来た球を返す仕事になっていたのです。コミュニケーションの機能は他部署に散在し、言葉では「連携」と言いながらも、全体最適から見ると十分とは言い難い状況でした。


そこで私は3年間のプランを描きました。1年目は意識改革、2年目は機構改革、3年目は数字としての成果をつくる。この流れを明確にし、ファンクラブ(FC)会員数をKGIに据えることで、広報が“事業の数字にコミットする部署”へと進化する道筋をつくりました。動員や売上、利益といった指標に広報が関与し得ることを、組織全体に示していく取り組みでもありました。


>選手を起用しFC入会を促進した時の様子①

>選手を起用しFC入会を促進した時の様子②


私は広報を「忍者」と表現したことがありますが、もう少し具体的に言えば、“経営の懐刀”であるべきだと考えています。経営が知りたい情報を誰よりも早く察知し、判断材料を揃える。社内外から信頼されなければ、その役割を果たせず、懐刀にはなれませんし、逆に経営から信頼されない広報は簡単に無力化してしまいます。

だからこそ、「期待値を少しだけ上回る」ことを大切にしてきました。大きく上回る必要はありません。少しでいい。その積み重ねが“任せられる存在”としての信頼を育てます。


現在、広報部のKGIとして設定したFC会員数も目標を大きく達成し、観客動員数も想定を上回りました。法人としての予算達成も見えてきており、数字の面では追い風が吹いた一年だったと思います。

ただ、信頼している先輩から「修平、飛ばし過ぎるなよ」とたしなめられ、アクセルを踏みすぎたかなとハッとする瞬間もありました。



【視座=人財育成】課題を見抜く力と、解決へ導く胆力

知的生産のプロセスは「課題設定 → 仮説構築 → 情報収集・整理・分析 → アウトプット」という流れで進みます。なかでも最も重要なのは“何を課題に据えるか”という点です。

本質的な課題を見抜くためには、視座を上げる必要があります。着任当初から部員には「自分が広報部長だったら」「自分が社長だったら」という視点で考えるようお願いしてきました。担当であっても社長の視点を持つことに努めることで、見える景色は大きく変わります。


社内でアイデアを出し合い、実現に至ったファンクラブ入会特典の数々(提供:西武ライオンズ)。


視座を上げるもうひとつの方法が、プライベートの充実です。広報部の方針の一つには「プライベートを充実させ、自己啓発に努め、自分自身を高めて、人生を豊かにしよう」と明記しています。これは、私自身が三人の子どもの父であり、育児を通して“仕事以外の経験が視点を大きく広げてくれる”と実感してきたこととも重なります(妻からは「あなたは全然やっていなかった」と言われてしまうのですが……)。


だからこそ、育休や有休を積極的に取ることを部として推奨してきました。一時的には社内の負担が増えますが、得られるものはそれ以上だと思っています。日常とは異なる環境に身を置くことで、多様な価値観に触れ、それが必ず仕事に還元されると考えているからです。


今シーズンは、広報課長が育休に入りました。その際、部員には「視座を上げる大きなチャンスだね」と伝えました。

課長が不在になれば、必然的にメンバーは“ひとつ上の視点”で仕事に向き合うようになります。これは組織が伸びる瞬間でもあり、上司の役割は、その挑戦に感謝し、耳を傾け、迷ったときには力強く後押しすることだと感じています。

組織が成長するためには、人の成長が不可欠です。視座の高い人が増えれば議論の質が変わり、結果としてファンやお客さまのために提供できる価値も大きくなります。


なお、育休などを取得すると、一時的に人手不足となり、社内の負担が増えるといいましたが、この事象は予見ができます。そのために普段からどのように準備をしておくかが大事です。

広報部では、「部内多能化の推進」も掲げており、ジョブローテーションを定期的に実施しています。穴が空いた時も、誰でもその仕事がカバーできるようにする。もちろんジョブローテで未経験分野の業務を任されることで、部員の視座も必然的に上がりました。


【ファンとの共創】動員伸長率“12球団1位”を生んだ若い世代の力

2025シーズンの観客動員数は173万人となり、前年比で12球団トップの伸長率を記録しました。特に目立ったのは、新たにFC会員になった20〜30代の若い人たちでした。若い世代の「観戦スタイルの多様化」に正面から向き合ったことが、結果として数字に表れたと感じています。






ファン向けのイベント「LIONS BOUQUET SERIES(ライオンズブーケシリーズ)」では撮影ブースなどを多数用意し賑わった(提供:西武ライオンズ)。


若年層は“野球の外側の時間”、いわゆる余白時間に価値を求めます。そのためTikTokの開設、Instagramでの野球以外の投稿、テレビCM「圧倒的至近距離」など、さまざまな接点づくりを行いました。従来の一部ファンからは厳しい声もいただきましたが、それでも「新たな方に来てもらうため」には新しいタッチポイントが必要でした。




そして、若いお客さまがライオンズを好きになる最初の理由は、実は“野球そのもの”だけではなかったりします。


実は、最初の“好き”をつくった要因を占めるひとつが、“美味しい球場メシ”だったように思います。ベルーナドームの飲食メニューはこの3年間で大きく進化し、通称「獅子まんま」は“球場メシの象徴”として愛される存在になりました。SNSで開催した「#キングオブ獅子まんま2025」の投票は過去最高の参加数となり、飲食売上も前年比を大きく上回りました。


食は“体験の核”で、気持ちを上げるために欠かせない大事な要素です。ここに経営資源を投下した判断は、球団としてとても意味のあるものだったと感じています。



11月23日に開催された「LIONS THANKS FESTA 2025」限定グルメ「キングオブ獅子まんまV2プレート」(提供:西武ライオンズ)。


飲食メニューの進化が“体験の核”になった一方で、もうひとつ、ファン文化を大きく育ててくれた要素があります。それが“遊び心”の象徴である「ビッグチェーンネックレス」、いわゆるクソデカネックレスです。


ヒーローインタビューで選手が身につけ、それに合わせてファンがスタンドで同じネックレスを掲げる──あの光景は、今年のライオンズを象徴するシーンになりました。SNSでは「#旅するクソデカネックレス」というハッシュタグが自然発生的に広がり、UGCも一気に増加しました。結果として、グッズの売上も前年比を大きく上回る伸びとなりました。


累計1万個超売れた「クソデカネックレス」ことビッグチェーンネックレス(提供:西武ライオンズ)。


一方、ベルーナドームの“暑さ”は長年の課題です。短期・中期・長期の視点で解決していかなければなりません。しかし今年は、あえて暑さを“体験価値”に変える挑戦をしました。


「BIG WATERFALL」や「スプラッシュシート」は、暑さを逆手に取ったエンタメ企画として話題を呼びました。実施前に完売できなかった企画が、実施初日にSNSでUGCが爆発的に広がり、一気に全試合完売。快適性を追求するだけでなく、“夏を楽しむ体験”として評価されたことは大きな意味があったと思います。


ベルーナドームの1・3塁側メインコンコース入口付近の屋根から水を噴出させる「BIG WATERFALL」で涼を提供(提供:西武ライオンズ)



得点時やイニング間イベント時に水が大量に噴射される演出が楽しめる座席「スプラッシュシート」も企画した(提供:西武ライオンズ)。


この「弱点を強みに変える」という発想は、オーナーである後藤(高志)の影響を強く受けています。


「明けない夜はない。ピンチは最大のチャンスだ」


グループが危機に直面した際、いつも後藤が役職員に投げかけたメッセージです。暑さも同じで、短期でも対処しつつ、中長期で本質的な解決を進めていく。これはプロ野球事業における大きな課題ですが、真正面から向き合っていきたいと思っています。



【ライオンズらしさとは何か】派手さではなく、信頼の接点を積み重ねること

この一年、私が最も考え続けたのは「ライオンズらしさとは何か」という問いでした。派手な話題や短期的なバズを追うことも必要ですが、ブランドを形づくるのは“信頼の接点”の積み重ねです。

「圧倒的至近距離」という言葉をCMで打ち出したのは3月のこと。これを費用ではなく“投資”として使い続けたことで、SNS上ではファンの皆さんがその言葉を育ててくださいました。秋のキャンプやファン感謝祭でも自然と使われ、社員の視点も確実に変わってきていると感じています。

ブランドは、企業がつくるものではなく、ファンと企業が共につくっていくものです。今年ほどそれを実感した年はありませんでした。



【最後に】組織の成長が、ファンの笑顔をつくる

長く続く企業には、共通する3つの要素があると私は考えています。


「らしさ」

「長期的視点」

「たまに話題性」


BtoCでもBtoBでも、業種が変わっても、この3つは普遍です。野球、不動産、ホテル・レジャー、鉄道・交通──すべての事業に通じます。

私はこれからも、この3つを意識しながら、お客さまや地域社会に“かけがえのない空間と時間”を提供していきたいと思っています。

そして、ライオンズが50周年を迎える2028年には、しっかりと「らしさ」を言語化し、次の50年をともに歩めるよう準備していきたいと考えています。


半年間、今シーズンも私のコラムにお付き合いいただきありがとうございました。このアドタイのコラムを読まれた方に少しでも「ライオンズと仕事をしてみたい」、あるいは「ライオンズで働いてみたい」などと感じていただけたら幸いです。